[当事務所の弁護士の個人的体験談です]
私の両親も結構な年齢となったこともあり、家族で相談して家族信託(民事信託)を行いました。
他の方にとって参考になる点もあるかと思い、その経緯を体験談としてまとめたのがこのページです。
家族等が受託者となって行う信託は、家族信託、民事信託などと呼ばれますが、以下では統一して「家族信託」と呼ぶことにします。
(「家族信託」で検索される方が多かったので、「家族信託」という記載にしました。)
福岡の弁護士であるため、福岡での家族信託に関する事情が主となっています。他の地域では事情が異なることもあるかと思いますので、参考にされる場合はそのこともご考慮ください。
家族信託、民事信託の簡単な説明は、「家族信託(民事信託)とは」のページをご覧ください。
家族信託(民事信託)と他の制度(生前贈与、遺言、成年後見、任意後見、財産管理委託契約)との比較については、「家族信託(民事信託)と他の制度との比較・違い」のページをご覧ください。
目次
家族信託(民事信託)を行うと決めるまで
姉からの相談
家族信託を行うきっかけとなったのは、姉から相談を受けたことです。
両親は、テナントビルを所有しています。
父親は80歳を過ぎて、何ということもないのに転倒したりすることも多くなりました。
母親はまだしっかりしているのですが、さすがに以前よりは年を取ったと感じるようになりました。
姉は、両親の隣りに住んでいて、その状況もよく知っていたので、これからのビルの管理が不安となったということで相談に来たのです。
もし、認知症になったら、不動産を処分する必要があっても処分できないのではないか、そうすると何かあったときに困るのではないかと心配していました。
姉から、「家族信託というのが使えないか」と質問されたので、家族信託についての一般的な説明をして、今回の件で使えるか少し検討してみると伝えました。
家族信託を行う前の弁護士としての認識
姉から相談を受けた段階での弁護士としての家族信託に関する認識は、
「よく分からない士業のひとが都合よく使っている制度」
というものでした。
この件で話を聞いた、税理士さんや弁護士さんも概ね同じような認識であったことから、弁護士や税理士の多数派は、私とそれほど変わらない考えではないかという感覚です。
しかし、改めて色々と検討してみると、ちゃんとやれば家族信託は財産管理に使える制度なのではないかという気がしてきました。
(他の制度との比較などの検討した内容については、長くなるので、また別の機会に書いてみたいと思います。)
特に大きなメリットは、以下の点です。
- 生前に財産の管理を子供などに任せることができる。
- 受託者(管理を任されたひと)に信託した財産(特に不動産)を処分(売却、抵当権設定など)する権利を与えることができる。
- 信託された財産は遺産分割の対象ではないため、相続発生後も遺産分割協議などをせずにそのまま使用できる。
- 信託しても財産により利益を受けるのは委託者(元々の財産を持っていたひと)なので、日々の生活費などの委託者の生活には影響が出ない。
その時点で、弁護士として依頼者に勧めるかというと難しいところでしたが、弁護士の業務としてではなく、家族に必要な説明をしつつ自分が関与して行うのであれば、やってみるのもいいかということで、家族信託を進めてみることにしました。
家族信託の内容の設計
家族信託の設計は色々とあり得ますが、
今回は、
- 委託者である両親の子供が不動産の管理を行う。
- 必要とあれば不動産の処分もできるようにする。
というのが主な要望です。
色々な要素を考えて、
- 受託者は、子供を構成員とする一般社団法人とする。
- 信託口口座は開設せず、金銭は法人の口座で管理する。
- 受託者による新たな借入は行わない。
- 不動産に付随する借入の債務者は、委託者のまま、受託者へ変更、委託者と受託者の併存のどれでもいい(銀行の意向による)。
とすることにしました。
法人設立の費用の支出を受け入れられる(少しお金がかかってもかまわない)のであれば、受託者を法人とすることは色々とメリットがあります。
何より、せっかく家族信託を始めたのに受託者が管理を続けられなくなって家族信託を終了させるしかなくなるという不測の事態を防ぐことができます。
(例えば、受託者が先に亡くなる、病気になる、遠隔地に引っ越さなければなくなくなるなど。)
また、信託口口座を開設するとなれば、それについても銀行と話をしなければなりません。
信託口口座の開設に応じる銀行が必ずしも多いとはいえないこと、開設に応じるとしてもそれぞれの銀行で対応がばらばらであることなどから、時間も手間もかかることも予想されます。
そこで、独立した口座を開設できるという法人設立のメリットをいかして、金銭の管理は法人の口座で行うことにしました。
両親への打診
実際に家族信託を進めるとなったので、両親に相談しました。
家族信託を行う場合、委託者は、それまで持っていた財産(全部ではなくとも、かなりの部分)を自分以外のひとの管理に委ねることになります。財産を渡してしまう生前の財産贈与とは異なるのですが、それと同様に財産が無くなるように思って不安を感じる方も多いようです。
家族信託に関するひととおりの説明を姉から両親にしたところ、
父親は、「分からんから、どうでもいい」とのことであり、母親に任せるとのことでした。
母親は、色々と不安もあるようでしたが、最終的には家族信託を進めるということでかまわないということで、両親から同意を得ることができました。
兄弟での相談
両親から同意を得られたので、次は、推定相続人である兄弟でどうするかを相談することにしました。
我が家は4人兄弟なのですが、都合のいいことに兄弟全員が近くに住んでいるので、全員で集まって、話をすることができました。
職業柄、相続関係の話で親族の意見がぶつかるのを見ることは多いのですが、我が家の兄弟はみんな、テナントビルなんて引き継ぎたくないということで、両親が生きている間の管理方法として家族信託を利用することも特に反対もなく、「いいんじゃないの」ということで、進めることになりました。
家族信託の実際の手続
家族信託をやるということに決めたので、実際に手続を行っていくことにしました。
銀行との話
ビルの建設費用等は銀行からの借入でまかなっていて、土地・建物に抵当権が設定されていました。
家族信託を行うと、登記名義上は、不動産の所有権が委託者から受託者へ移ります。
金融機関が抵当権を設定する際の契約書には、金融機関の同意なく被担保不動産の所有権の移転等を行うと期限の利益を失う(一括返済をしなければいけなくなる)という条項が入れられています。
銀行に断りなく家族信託を行うと、借入金を一括で返済しなければならなくなるので、まずは銀行に話を通す必要があります。
そこで、借り入れをしている銀行(「A銀行」といいます)に話を持って行くことになりました。
(A銀行は、福岡の地方銀行ですが、一応匿名としておきます。)
母親と姉に資料(こちらで作った信託契約書案と説明資料)を持ってA銀行の融資担当の支店に行ってもらい、家族信託を行うことを考えていると伝えてもらいましたが、対応したA銀行の担当の方はよく分からないとのことで、後から連絡をもらうことになりました。
その後、姉のところに融資担当者と詳しいひと(来たときに聞いたところ、事業・資産承継の業務を行っている方とのこと)が一緒に説明に来るということだったので、私も同席することになりました。
A銀行で過去に不動産を担保として融資をしている件で家族信託を行ったという場合の取扱いを質問したところ、把握している限りでは件数はほとんどなく(0~1件というレベル)、詳細は分からないとのことでした。
信託口口座の開設も、相談は年に数十件あるが、従前の取引がないなどの理由で開設に至らないことがほとんどで、開設は年数件くらいとのことでした。
銀行の方達は、財産承継の相談を受けるために来たという認識のようで、信託口口座の開設、相続税対策の話をしていて、話が噛み合ません。
こちらの要望は、担保を設定している不動産を信託するので、銀行として問題がないのか判断して欲しい(問題ないなら同意して欲しい)ということだけだと伝えましたが、あまり理解してもらえていない感じでした。
このように、こちらの意向とA銀行の方の認識が噛み合わないため、そのあともなかなか話が進みませんでした。
結局、何度も融資担当者に連絡を行い、早く同意をしてくれるように急かしたところ、ようやく家族信託に伴う所有者変更の方針にA銀行としては特段の問題はないとの回答をもらえました。
(最初に話をしてから5か月近くかかりました。)
税理士さんとの話
当事者にとって、税金の問題は、重要な関心事です。
家族信託は、単に財産の管理を受託者に委ねる制度なので、所得税等の税金は委託者(元の財産の所有者)が負担します。
つまり、家族信託自体は、現時点(いまの日本の税制)では、税金の負担を増やすことも、減らすこともない制度となっています。
(家族信託を利用した税金対策などは、すでに全て対策済みと言っていいので、家族信託だけで税金を減らすことはできないと考えて間違いありません。)
しかし、家族信託を行ううえで、税金に関して疑問点は生じるわけで、そのことに関しては、実際に行う前に解消しないといけません。
私は弁護士ですが、餅は餅屋ということで、姉と一緒に、以前から両親がお世話になっている税理士の先生へ相談することにしました。
私と姉で税理士の先生に面談してもらい、私も姉も疑問に思っていることを質問して、おおむね分からないことは解消できました。
家族信託に関する課税関係については、私も色々と調べてはいたのですが、税理士の先生に相談することによって疑問点がなくなり、本当に助かりました。
信託契約の締結
一般社団法人の設立
銀行の同意も得て、税金に関する疑問点も解消されたので、いよいよ実際に信託の手続を進めることになります。
今回は、受託者を一般社団法人とすることにしたので、まずは法人の設立を行います。
一般社団法人を設立するには、
- 定款の案を作って
- 公証役場で定款認証をしてもらい
- 法務局で設立登記をする
必要があります。
それに付随して、印鑑を作ったり、印鑑証明書等を集めたりと色々とやることがあります。
一般社団法人の設立の手続は、ネットを検索すれば調べることは可能ですが、全くの素人が独力で行うのはなかなか大変だと思います。
(経験の無い方は、法人設立サービスを利用した方が効率的です。)
私は、職業柄、以前にも何度か一般社団法人の設立を行ったことがありましたので、定款案や法務局への提出書類は全て自分で作成して、手続自体は、代表者である姉に行ってもらいました。
定款の認証は公証役場で公証人の先生にお願いします。福岡であれば、福岡公証役場で行います。
また、登記申請は法務局で行います。福岡であれば、福岡法務局で行います。
(管轄の法務局については、福岡法務局の管轄区域一覧を確認してください。他の地域であれば、それぞれの法務局のページに管轄区域一覧があります。)
一般社団法人の設立(手続に必要なものを伝えてから、登記が完了するまで)にかかった期間は、約1か月でした。
もう少し早く終わることもありますが、大体そのくらいの期間はかかるのではないでしょうか。
(一般社団法人の設立を行ったことがないひとが独力で行おうとすれば、この数倍の時間がかかってしまうでしょう。)
信託契約書案の作成
受託者となる一般社団法人ができたら、信託契約書の作成を行います。
信託契約書は、必ずしも公正証書にする必要はないのですが、手続を円滑に進めるため、銀行を安心させるため、後で揉めるのを避けるためなどの理由で公正証書とすることにしました。
信託契約書をどうするかは、まさに信託の内容を決めることなので、色々と考慮すべき点があります。
(信託を始めた時点のことだけでなく、先々、当事者の一部が亡くなった後のことも十分に考えておく必要があります。)
遺言書は、被相続人が死んだときに、誰に何を遺すかを決めるだけなのに対して、家族信託の信託契約書は、家族信託を開始してからの財産の管理方法、当事者が亡くなった場合の処理、その後のことを決めることになるので、遺言書より考えるべきことが沢山あります。
(逆に言えば、家族信託を利用することにより、遺言ではできない財産の遺し方もできることになります。)
今回は、銀行へ話を持って行く前にすでに信託契約書の案を作成していたので、それに少し修正を加えただけで信託契約書案ができました。
公証人への確認
信託契約は、公正証書にすることにしたので、公証人との調整を行って、公正証書を作成します。
福岡なので、一般社団法人の定款認証と同様に福岡公証役場の公証人の先生に確認をしてもらいます。
(実は、他の地域の公証人の先生に認証してもらうことも可能ですが、作成時に公証役場へ行くことを考えると、委託者の近くの公証役場が便利だと思います。)
信託契約書の公正証書を実際に作成をする前に行うことは、以下のとおりです。
- 公証役場に電話して、信託契約の公正証書作成をお願いしたいと伝える。
- 信託契約書案のチェックをしてもらう。
信託契約書案を公証役場に送り、その内容をチェックしてもらいます。
信託契約書案は、FAXまたはメールで送れば大丈夫です。
公証役場に聞けば、FAX番号、メールアドレスを教えてくれます。
(福岡公証役場の連絡先は福岡公証役場の「アクセス」のページにも書いてあります。) - 公証人の先生からチェックした結果の連絡が来る。
公証人の先生は、いつも仕事が早く、法人の設立などの定型的なものだけでなく、信託契約書のようなそれなりにチェックに時間がかかりそうなものであっても、すぐにチェックして、連絡をくれます。
今回も信託契約書案を送った翌日にはお電話をいただきました。 - 修正すべき内容があれば、修正して再度チェックしてもらいます。
今回も1点指摘を受けたため、その部分を修正して再度チェックしてもらい、OKが出ました。
公正証書の作成
公証人の先生にチェックしてもらったら、実際に公正証書を作成してもらいます。
信託契約の公正証書を作成してもらうには、信託契約の当事者(委託者と受託者)が公証役場まで行く必要があります。
どうしても公証役場まで行けない場合は(委託者が病気・高齢などで外出できないなど)、出張してもらうことも可能です。
しかし、出張してもらう場合は別途費用がかかるうえ、公正証書を修正する必要がある場合などは、公証役場であれば簡単にできることも、出張してもらった場合には難しいということもあります。
したがって、どうしても行けないという場合以外は、公証役場まで行く方がいいでしょう。
ちなみに、福岡公証役場は建物の2階にあるのですが、父親は、当時移動するのも一苦労という状態だったので、タクシーで建物の前についてから公証役場まで上がっていくのがとても大変だったそうです。
公証役場は、公正証書遺言等の作成で高齢者などが来訪することも多いのですから、高齢者などでも来訪しやすいようにしてもらえるとありがたいと思います。
公証役場に行く際には、実印、印鑑証明書、身分証明書(運転免許証等)などの必要なものがあるので、事前に確認しておきましょう。
公証役場に行けば、公証人の先生の説明を聞き、本人確認などをしたうえで、その日のうちに公正証書を作成してもらえます。
登記の手続
信託契約の公正証書ができたら、信託の登記を行います。
信託契約を公正証書にするかは自由ですが(公正証書にしなくても効力に影響はない)、信託の登記は必ず行わなければなりません。
信託の登記は、自分で行うことも可能ですが、私が忙しい時期だったこともあり、司法書士の先生に頼むことにしました。
司法書士に依頼するか自分でやるかの違いは、
- 自分でやると手間はかかるが費用はかからず
- 司法書士に依頼すれば費用はかかるがそれほど手間はかからない
というところです。
登記の内容のうち、信託目録の記載事項はどうするか考える必要がありますが、実際に検討すべきは「信託目録に記録すべき情報」の一部だけ、具体的には「その他の信託の条項」に何を書くかです。
専門家の助言を受けて家族信託を進めてきたのであれば、「その他の信託の条項」に何を書くかもその専門家に助言してもらえば十分でしょうから、登記の内容について司法書士の先生にさらに助言してもらう必要はないことの方が多いでしょう。
司法書士への依頼
依頼する司法書士は任せると姉に言われたため、せっかくなので、家族信託を専門としている司法書士さんの話を聞いてみたいと思い、ネットで検索して、司法書士さんを探しました。
見つけた司法書士の先生の事務所へ連絡して、家族信託の登記をお願いしたい、信託契約書はこちらで作成しているので登記だけお願いしたいと伝えました。
(こちらが弁護士であることも伝えているので、それ以上のことはあまり質問されませんでした。)
メールで必要な資料を送って、内容の確認と見積りをお願いしました。
すると翌日には、見積書と記載事項に関するご意見をいただけました。
その後、何度かやり取りをして、登記してもらう内容も決まったので、その司法書士の先生へお願いすることになりました。
実際の登記手続
実際の登記手続は、司法書士の先生に本人達(委託者である両親、受託者である法人の代表者である姉)の本人確認等を行ってもらうくらいで、後は全て司法書士の先生がやってくれるので、特に問題はありませんでした。
5月12日に登記申請を行い、登記完了したのが6月1日なので、約3週間くらいかかったことになります。
(法務局が混んでいるため、少し時間がかかったとのことでした。)
登記後の手続
登記が終わったら、その後の必要な手続等を行います。
- 銀行に信託の登記が完了したことの連絡
- 信託財産のうちの金銭を一般社団法人の口座へ移動
- 不動産管理会社や警備会社等への連絡と契約変更
- 火災保険の名義変更の手続
などを行って、必要な手続等は終了です。
家族信託をやってみた感想
銀行との話が一番時間を要する
振り返ってみて一番時間がかかったのは銀行との話でした。
姉から最初の相談を受けて、最終的に登記が完了するまでの期間は約1年だったのですが、そのうち5か月くらいは銀行の対応待ちでした。
家族信託を手がけている銀行は少なく、手がけているとしても、その対応がマニュアル化されるまでには至っていないため、どうしても時間がかかってしまうようです。
今回の件では、支店の担当者は、できるだけ早く進められるようにがんばってくれていたようですが、それでも5か月くらいはかかってしまいました。
家族信託を行う場合に銀行と話をしなければいけないのであれば、ある程度の時間がかかることは覚悟して(そういうスケジュールで)手続を進める必要があると感じました。
今回は、信託口座を開設することもなく、受託者による借り入れができるようにもしませんでした。
そのようなことも行う家族信託を行うのであれば、さらに時間が必要となりそうです。
事情を把握した専門家の助力が必要
今回は、弁護士である私が家族信託の制度設計を行いました。
両親、兄弟も含めてみんなが近くに住んでいたので、必要な情報の把握やコミュニケーションも比較的簡単でした。
(両親と同居している兄や両親の隣に住んでいる姉も積極的に協力してくれました。)
そのため、家族信託を進めるのは、比較的容易だったと思います。
しかし、一般の方が自分で制度設計(どのような信託にするか)を決めるには、家族信託は少し難しすぎる制度です。
単純な遺言書を書くだけなら、自分で調べて何とかするという選択肢もあるでしょうが、家族信託を行うのであれば、専門家の助力は不可欠です。
しかも、わざわざ家族信託を使うのであれば、そのための特殊事情があると思います。
(遺言書などでは実現できないことがあるからこそ、家族信託を使いたいと思うのでしょう。)
そうであれば、関係者(財産を信託する委託者、家族・推定相続人、管理を受託される受託者など)の話をじっくり聞いて、必要な制度設計をする必要があります。
したがって、家族信託を行ってみたいというのであれば、じっくり話を聞いてくれる専門家の助力が何より重要ということになると思います。
信託について詳しいひとは、ほとんどいない
家族信託を行うには、専門家の助力が何より重要と言っておいてなんですが、家族信託に詳しいひとは、士業などの専門家、金融機関の関係者などを含めてほとんどいないというのが現状です。
最初にも書いたとおり、弁護士や税理士には、
「よく分からない士業のひとが都合よく使っている制度」
という認識のひとも多く、食わず嫌いというのも変ですが、あまり自分とは関係がない制度と思っているようです。
(私自身も今回の件まではそのような認識でした。)
かと言って、家族信託を専門にしているという「専門家」がどの程度ちゃんとしているのかというとひとそれぞれで、少なくとも
「よく分からない士業のひとが都合よく使っている制度」
と思わせてしまう実例があることも事実です。
金融機関についても、信託を手がけているところであっても、よくある業務ではないため、金融機関の通常の業務のようにスムーズには進まないことが多いでしょう。
不動産を担保にお金を借りるより、家族信託に関する同意を得る方が何倍・何十倍も時間や手間がかかるという不思議な現象が起こってしまいます。
信託について詳しいひとは、ほとんどいないという問題については、一朝一夕に解決することではないので、しばらくは、家族信託を行いたいというひとは、あせらずじっくり相談できるひとを探すしかないでしょう。
家族信託がお勧めな場合
家族信託は、それなりに手間も費用もかかるので、単に亡くなった場合の財産の分配を決めたいということであれば、遺言書による方が簡便です。
また、家族信託自体は、現時点では、税金の負担を増やすこともなければ、減らすこともない制度ですから、相続税対策のためだけに家族信託を行うのもお勧めできません。
家族信託がお勧めな場合を思いつくままに挙げると以下のとおりとなります。
・賃貸物件を所有している場合
賃貸物件を所有している場合、ある程度の年齢になったら自分の子供などに管理を任せたいと希望される方は多いでしょう。
その場合、一部の事務だけを任せるだけなら家族信託を行う必要はありませんが、物件を担保とする借り入れも任せたい、将来的な物件の処分も任せてしまいたいということであれば、家族信託は、最適な選択肢のひとつとなります。
・施設入所、介護の場合は不動産を処分したい
ご夫婦やおひとりで生活されていても、ある程度の年齢になったら施設へ入所することを考えている方もいらっしゃると思います。
その場合、入所時にまとまったお金が必要なことも多いため、施設入所に先だって、それまで住んでいた不動産の売却が必要になることもあります。
(お金は足りても、住んでいた不動産を放置するわけにもいかないでしょう。)
ご自分で売却できれば問題ないのですが、いよいよ施設へ入所しようという時点では、不動産売却を自分で行うのが難しいということもあり得ます。
そのような場合を想定して、先に不動産を子供などに信託して、必要なときに代わりに売却を行ってもらうというのは、家族信託のひとつの使い方でしょう。
・法人の経営者などで不動産、株式の分散を避けたい場合
法人の経営者の方などで、事業に利用する不動産を所有している、自らの経営する会社の株式の分散を避けたいという場合にも、家族信託は有効な方法となりそうです。
特に法定相続人が複数の場合は、遺言や生前贈与では解決が難しくても、家族信託を使うことにより解決できるということは十分にあり得ます。
最後に
以上で、家族信託の体験談は終了です。
家族信託は、まだまだメジャーではありませんが、場合によっては使い道のある制度だというのが、自分でやってみた感想です。
今回の件で私も色々と勉強できたので、もし家族信託について相談したいけど、どこに相談すれば分からないというときは、当事務所にご相談ください。
当分の間は、家族信託に関する相談は初回無料とします。
ご相談の際はこちらの相談予約のページからどうぞ。