職歴証明書を発行する義務はあるのか?
従業員を雇用していれば、退職した従業員から退職証明書、職歴証明書などの発行を頼まれることがあると思います。
- 職歴証明書の発行を頻繁に依頼されるため、事務の負担が大きい
- 勝手に辞めた従業員から職歴証明書の発行を依頼された
- ずいぶん前に辞めた従業員から職歴証明書を発行してくれという連絡が来た
という場合、会社は、発行を拒むことができるでしょうか。
目次
「退職時等の証明」を交付する義務があります
使用者(会社)は、従業員(労働者)が退職する場合、従業員から「使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由について」の証明書を請求された場合には、交付する義務があります。
(労働基準法22条1項)
その趣旨は、労働基準局長通達によれば、「解雇や退職をめぐる紛争を防止し、労働者の再就職活動に資するため」とのことです。
法律上の義務ですから、面倒くさい、事務の負担が大きい、辞めた従業員に良い印象を持っていないなどの理由で退職証明書、職歴証明書の発行を拒否することはできません。
退職時等の証明を請求されたにも関わらず、発行を拒否した場合には、30万円以下の罰金が科せられることもあります。
(労働基準法120条1項)
どのような内容を記載すればいいのか?
では、どのような内容を記載した証明書を発行すればいいのでしょうか?
証明書に記載する内容は、従業員の請求に沿ってすることになっています。
したがって、請求をしてきた従業員に記載して欲しい内容を確認して、証明書を作成することになります。
従業員毎に書式を変更するのは大変ということであれば、統一の書式を作成して、請求してきた従業員が証明を希望する項目だけを記載して発行すればいいでしょう。
法律で証明すべき事項として例示されているのは
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由
なので、書式を作成するのであれば、上記5項目、従業員名、証明年月日、発行者(発行する会社の名称等)を記載できるようにしておきましょう。
退職日の記載は求められることが多いでしょうから、
使用期間を「○○年○○月○○日から○○年○○月○○日まで」とするか、
上記5項目に加えて退職日の項目を付け加えて書式を作成すればいいでしょう。
職歴証明書に具体的な仕事内容を書いてくれと言われることもあるかもしれませんが、最低限「業務の種類」、「その事業における地位」を書けば法律上は問題がないと思われるので、それ以上の詳細は書かなくてもかまわないでしょう。
請求された項目だけしか記載してはいけない
証明書を発行するにあたって注意すべきは、従業員から請求された項目以外は記載してはいけないということです。
労働基準法は、
「証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。」
(労働基準法22条3項)
「労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。」
(労働基準法22条4項)
とわざわざ、従業員が請求しない事項を証明書に記載することを禁止しています。
例えば、従業員が「使用期間」のみの証明を求めてきた場合、解雇したのだからと「退職の事由」として「解雇」と記載すると「労働者の請求しない事項」を記載したことになり、労働基準法違反となります。
従業員の請求する項目が不明確な場合もありますから、従業員に十分確認をして、証明書の発行でトラブルとならないようにしましょう。
いつまで発行する義務があるのか?
職歴証明書の発行を求められたが、ずいぶん前に辞めた従業員なので、資料が残っていない、
ということもあるかもしれません。
では、いつまで証明書を発行する義務があるのでしょうか?
法律には、「退職の場合において」としか書いていませんが、退職時等の証明は、退職と同時にだけではなく、退職した後も請求できるとされています。
しかし、いつまでも請求できるとなると、全ての従業員に関する資料をいつまでも保管しておく必要があることになってしまいます。
退職時等の証明書を請求する権利は、労働基準法に定められた権利(「この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)」なので、2年間の時効によって消滅します。
(労働基準法115条。平成11.3.31基発第169号)
したがって、退職から2年を超えた従業員については、請求があっても職歴証明書等を発行する義務はありません。
(もちろん、義務はなくとも、任意に発行することは問題ありません。)
労働者名簿の保存期間は3年ですから、2年間であれば、資料がなくて職歴証明書を発行できないということはないでしょう。
再度の発行請求に応じる必要はあるのか?
1度退職証明書を発行した従業員から、再度退職証明書の発行を請求された場合、対応する必要はあるのでしょうか。
労働省労働基準局長の通達(平成11.3.31基発第169号)は、「退職時の証明を求める回数については制限はない」としています。
したがって、1度発行したからという理由で再度の証明書発行を拒むことはできません。
2年間は、面倒でも、諦めて対応するしかありません。
ただし、無償で発行することまでは求められていないので、発行手数料、郵送料を請求することは可能です。
まとめ
職歴証明書、退職証明書は、
- 従業員から請求があれば、発行すべき法律上の義務がある
- 記載する内容は、従業員が請求する項目だけ
- 退職してから2年間は発行する義務がある
- 2年以内であれば、再度の発行請求にも応じる必要がある
というのが本記事のまとめです。