従業員が退職願を提出しない場合には
従業員を雇用していれば、従業員が退職することもあります。
円滑に退職の手続が終わればよいのですが、そうではないこともあります。
今回は、従業員が退職をしたいと言ってきて、会社としても退職に同意しているのに、いつまで経っても退職願が提出されない場合の対応について考えます。
目次
従業員に退職願の提出義務はあるか?
口頭での退職願は有効か?
退職とは、法的には会社と従業員の雇用契約を解約することです。
契約の解約ですから
・解約の合意(または解約の申出と承諾)により成立するのが原則
・口頭での合意も可能
となります。
したがって、口頭で退職を申し出ても、それ自体は原則として有効となります。
退職願の提出を義務づけることはできるか?
しかし、口頭での退職申出では、内容が不明確である、申し出たことを示す証拠がないなどの理由によりトラブルが生じかねません。
そこで、多くの会社では、例えば、
「従業員が退職しようとするときは、少なくとも退職日の30日前までに文書により退職願を提出しなければならない。」
などと就業規則等に記載して、退職願の書面による提出を定めていることと思います。
この定め自体は有効であり、就業規則等で定めておけば、従業員に退職願の書面による提出を義務づけることができます。
退職願を提出しない場合の対応
まずは試みるべき方法
では、就業規則等で退職願の書面による提出を定めていても、従業員が退職願を提出しない場合、どう対応すればいいでしょうか。
- 退職願の提出が義務であることを伝えて、提出を促す。
- 退職願の書式を用意して、それを渡して書かせる。
- それでも提出しない場合、署名だけすればいい退職願を用意して、署名させる。
という方法を順番に試みるということになります。
(退職願の書き方が分からない、書くのが面倒くさいという理由で提出しない場合もあるので、上記2、3の方法を試みれば、提出することも多いものです。)
それでも提出しない場合の対応
それでも提出しない場合はどうするべきでしょうか。
(退職すると言って出社しなくなった従業員の場合は、前記2、3の方法も取れません。)
義務なのに提出しないのはけしからんと思われるでしょうが、わざわざ解雇の手続を取るという話にもならないので、どうするか方法を考えます。
退職願を書面で提出させるのは、後で揉めるのを避けるためです。
具体的には、
- 退職すると言っていたのに、急に辞めないと言い出した
- 退職をすると言っていて、会社に来なくなったが、退職日が確定できない
などのトラブルが想定されます。
そのようなトラブルを避けるため、退職の申出があり会社が承諾したことを証拠に残すようにします。
証拠に残す方法
社内だけの文書(例えば、総務が作る報告書など)では、後で従業員からそのようなやり取りはなかったと言われる可能性があります。
そこで、メール、メッセージなどの従業員に送るもので証拠を残す方法の方がより望ましいでしょう。
退職の申出と承諾があったことを書面に記載して、従業員の住所へ郵送する方法でもかまいません。
もちろん、証拠を残すことが大事ですから、
・送ったメール、メッセージを保存しておかなかった、
・送った書面の写しを取っておかなかった
ということのないように注意してください。
会話や電話を録音するという方法もありますが、「誰と誰が話をしているのか」、「いつ録音したのか」、「明確にすべきことを残す」という要素をカバーするのは難しいので、あまりお勧めできません。
明確にすべきこと
証拠を残す方法を取る場合、最低限明確にすべきことは、
- 従業員から退職の申出があったこと。
- 会社が従業員の退職申出を承諾したこと。
- 退職日
の3点です。
それ以外にも、必須ではありませんが、
- 最終の賃金、退職金の金額、支払い方法
- 従業員が返還すべき物品等の明細
- 引き継ぎすべき内容
なども書いておけば、そのような内容を伝えたという証拠になります。
守秘義務や競業避止義務などの退職後の義務も書いてかまいませんが、従業員が同意した証拠が残らないので、仮にそのような義務を負わせたいのであれば、従業員の署名する書面を作成するべきです。
まとめ
従業員が退職をしたいと言ってきたが、いつまで経っても退職願を提出しない場合について、
- 口頭でも退職の申出は有効といえる
- 就業規則で書面での提出を義務づけることは可能
- 退職願が提出されない場合は、メール・文書等で明確に証拠を残す
- 明確にすべきは、退職の申出があったこと、会社が承諾したこと、退職日
というのが本記事のまとめです。