善意
「善意(ぜんい)」というと,一般的には親切心があることなどを意味しますが,法律用語では全く違う意味です。
法律用語における「善意」とは,「(その事実を)知らない」ことです。
反対語は「悪意(あくい)」で,これも一般的な悪い意味ではありません。
法律用語における「悪意」とは,「(その事実を)知っている」ことです。
例えば,
民法563条2項には,「前項の場合(売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないとき)において,残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。」とあります。
他人の物を売買の目的物とすることは,法律上は何の問題もありません。
(もちろん,他人の物を勝手に売ってよいということではなく,例えば,甲の所有するA土地の隣に乙の所有するB土地がある場合,甲は,丙に対して,乙からB土地を取得するので,A土地とB土地を一緒に買ってくれと言って,丙との間でA土地およびB土地の売買契約を締結することは可能ということです。)
上記の規定は,目的物の一部が他人の物であって,売主がその他人からその一部を取得できなかった場合,残存する部分のみでは買主が買わなかったというのであれば,「売買の目的である権利の一部が他人に属すること(目的物の一部が他人の物であること)を知らなかった買主は,契約を解除することができる」としているのです。
買主の道徳心の有無や性格は問題ではなく,単に「目的物の一部が他人の物であること」を知っているか(悪意),知らないか(善意)で,契約を解除できるかが決まるということになります。
(追記:上記の旧民法563条の規定(他人物売買の規定)は、2020年4月施行の改正民法により大きく変更があり、全く異なる制度となりました。しかし、改正後の民法では、善意・悪意の適用場面を説明する適切な条項がなかなか見つからないので、もとの文章をそのまま残しておきます。適切な適用場面が見つかったら、書き直したいと思います。)